最高裁判決後におけるPBPクレームに関する論点整理

ここでは、最高裁判決を通してPBPクレームに関する論点を整理します。

1 はじめに

本稿は、プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(以下単に「PBPクレーム」という。)に関する論点のうち、二つの最高裁判決、すなわち、特許発明の技術的範囲の確定の在り方を示した最高裁判決(最高裁平成27年6月5日第二小法廷判決・平成24年(受)第1204号・民集69巻4号700頁[プラバスタチンラクトン及びエピプラバスタチンを実質的に含まないプラバスタチンナトリウム,並びにそれを含む組成物]。以下「最高裁判決1」という。)及び発明の要旨の認定の在り方を示した最高裁判決(最高裁平成27年6月5日第二小法廷判決・平成24年(受)第1204号・民集69巻4号904頁[プラバスタチンラクトン及びエピプラバスタチンを実質的に含まないプラバスタチンナトリウム,並びにそれを含む組成物]。以下「最高裁判決2」といい、「最高裁判決1」と「最高裁判決2」とを併せて単に「最高裁判決」ということがある。)により解決された論点と解決されなかった論点とを確認した上で、解決されなかった論点について、その後の裁判例等を通して検討する。

(1)PBPクレームとは

最高裁判決を担当した最高裁判所調査官による解説(1)菊池絵理最高裁重要判例解説(プラバスタチンナトリウム(プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)事件)
Low and Technology No.69(2015)
(以下単に「調査官解説」という。)に従えば、PBPクレームとは、以下のとおりのものをいう。

いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレーム(PBPクレーム)とは、物の発明についての特許に係る「特許請求の範囲」にその物の製造方法が記載されているものをいう。

(2)PBPクレームに関する論点

PBPクレームに関しては、「発明の要旨の認定(2)最高裁平成三年三月八日第二小法廷判決・昭和六十二年(行ツ)第三号・民集45巻3号123頁 [トリグリセリドの測定法]
特許法二九条一項及び二項所定の特許要件、すなわち、特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するに当たっては、この発明を同条一項各号所定の発明と対比する前提として、特許出願に係る発明の要旨が認定されなければならない・・・。
」と「特許発明の技術的範囲の確定(3)特許法第七十条第一項
特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。
」とをそれぞれ「物同一説(4)菊池絵理最高裁重要判例解説(プラバスタチンナトリウム(プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)事件)Low and Technology No.69(2015)によれば、特許請求の範囲に記載された製造方法にかかわらず、当該製造方法により製造された物と同一の物として解釈すべきであるとする見解のこと。」により行うか、又は「製法限定説(5)菊池絵理最高裁重要判例解説(プラバスタチンナトリウム(プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)事件)Low and Technology No.69(2015)によれば、特許請求の範囲に記載された製造方法により製造された物に限定して解釈すべきであるとする見解のこと。」により行うかが論点となっていた。

2 最高裁判決により解決した論点

最高裁判所第二小法廷における多数意見(以下単に「多数意見」という。)は、PBPクレームに関する論点について、(1)特許発明の技術的範囲の確定の在り方と、(2)発明の要旨の認定の在り方と、(3)明確性要件との関係の在り方とをそれぞれ明らかにした(6)菊池絵理最高裁重要判例解説(プラバスタチンナトリウム(プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)事件)Low and Technology No.69(2015)は、「8 本判決の意義」の項において、本判決は、・・・PBPクレームについての判断の枠組み(解釈基準および明確性要件との関係)を最高裁判所として初めて判断したものである。とする。

さらに、多数意見は、上記(1)~(3)のほか、(4)PBPクレームの審理の順序の在り方をも明らかにしたものと考えられる。

(1)PBPクレームにおける特許発明の技術的範囲確定の在り方

多数意見は、最高裁判決1において、PBPクレームにおける特許発明の技術的範囲の確定の在り方について、以下の一般的法命題を示した。

・・・,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても,その特許発明の技術的範囲は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として確定されるものと解するのが相当である。

最高裁平成27年6月5日第二小法廷判決・平成24年(受)第1204号

その上で、多数意見は、以下のとおりの判断により原判決を破棄する。との主文を導いた。

以上と異なり,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,そのような特許請求の範囲の記載を一般的に許容しつつ,その特許発明の技術的範囲は,原則として,特許請求の範囲に記載された製造方法により製造された物に限定して確定されるべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。

最高裁平成27年6月5日第二小法廷判決・平成24年(受)第1204号

(2)PBPクレームにおける発明の要旨の認定の在り方

多数意見は、最高裁判決2において、PBPクレームにおける発明の要旨の認定の在り方について、以下の一般的法命題を示した。

・・・,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても,その発明の要旨は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として認定されるものと解するのが相当である。

最高裁平成27年6月5日第二小法廷判決・平成24年(受)第2658号

その上で、多数意見は、以下のとおりの判断により原判決を破棄する。との主文を導いた。

以上と異なり,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,そのような特許請求の範囲の記載を一般的に許容しつつ,その発明の要旨は,原則として,特許請求の範囲に記載された製造方法により製造された物に限定して認定されるべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。

最高裁平成27年6月5日第二小法廷判決・平成24年(受)第2658号

(3)PBPクレームと明確性要件との関係の在り方

多数意見は、最高裁判決1において、PBPクレームと明確性要件との関係の在り方について、以下の一般的法命題を示した。

・・・,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である。

最高裁平成27年6月5日第二小法廷判決・平成24年(受)第1204号

その上で、多数意見は、以下のとおり判断して、本件を知的財産高等裁判所に差し戻す。との主文を導いた。

・・・,本判決の示すところに従い,本件発明の技術的範囲を確定し,更に本件特許請求の範囲の記載が上記4(2)の事情[出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情のことをいう。以下同じ。]が存在するものとして「発明が明確であること」という要件に適合し認められるものであるか否か等について審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

最高裁平成27年6月5日第二小法廷判決・平成24年(受)第1204号

(4)PBPクレームの審理の順序の在り方

特許権の侵害に係る訴訟において、特許権者の請求を棄却する旨の判決をするに当たっては、通常、対象製品が特許発明の技術的範囲に属するといえないことか、又は当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものであることか、これらのいずれかについて審理判断すれば足りるとされている(7)例えば、一般財団法人 知的財産研究所特許権等の紛争解決の実態に関する調査研究報告書』は、第15頁「④ 地裁判決の分類(全体)」の項において、権利の侵害が認定されず請求が全部棄却された判決のうち、権利無効のみにより非侵害と認定されたものは、136件(30%)であった。構成要件を充足しないことのみにより非侵害と認定されたものは、188件(41%)であった。とし、第28-29頁「④ 高裁判決の分類(全体)」の項において、[2-1]権利無効のみにより非侵害と認定されたものは、46件(23%)であった。[2-2]構成要件を充足しないことのみにより非侵害と認定されたものは、97件(49%)であった。とする。

さらに、当該特許を無効とすべき根拠として二以上の理由が申し立てられた場合において、当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものであるとの理由により特許権者の請求を棄却する旨の判決をするに当たっても、通常、いずれか一の理由について審理判断すれば足りるともされている。

以上によれば、特許権の侵害に係る訴訟において、特許権者の請求を棄却する旨の結論を導くに至る理由が二以上ある場合には、そのいずれから審理してもよく、これらの理由間における審理に順序はないといえる。

しかしながら、最高裁判所は、PBPクレームについては以上と異なり、審理に順序があることを明らかにしたものと考えられる。

(4-1)明確性要件の審理は技術的範囲の属否の審理に先行すること

PBPクレームの審理の順序の在り方に関し、対象製品が特許発明の技術的範囲に属するか否かについての審理又は特許請求の範囲の記載が明確性要件に適合するか否かについての審理のうち、いずれを先行しなければならないかの点について、最高裁判決1を通じて検討する。

多数意見による差戻理由は、以下のとおりであった。

・・・,本判決の示すところに従い,本件発明の技術的範囲を確定し,更に本件特許請求の範囲の記載が上記4(2)の事情が存在するものとして「発明が明確であること」という要件に適合し認められるものであるか否か等について審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

最高裁平成27年6月5日第二小法廷判決・平成24年(受)第1204号

これに対し、少数意見による差戻理由は、以下のとおりであった。

裁判官山本庸幸の意見は,次のとおりである。

私は,本件を原審に差し戻すことに賛成するが,その理由は多数意見とは異なるものである。以下,その理由を述べる。

・・・

上告人の本件特許に係る本件発明は,PBPクレームで表現された物(プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム)についてのものである。これに対し被上告人製品は,プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウムを含むものであることが認定されている。したがって,本件特許が無効でない限り,本件特許発明の技術的範囲に属するものであると考えられるものであるが,果たしてそのとおりか,また,その出願の経緯等からしてこれを限定的に解釈する可能性はないか等について審理を尽くさせるという意味で,本件を原審に差し戻すことに賛成するものである。

最高裁平成27年6月5日第二小法廷判決・平成24年(受)第1204号

多数意見と少数意見とを対比すると、

  • [一致点]
    • PBPクレームの特許発明の技術的範囲の確定の在り方に関し、

      当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として確定されるとした点において、

      両意見は一致し、

  • [相違点]
    • 本件の差戻しを受けた知的財産高等裁判所におけるPBPクレームの審理の在り方に関し、

      • 多数意見は、本判決の示すところに従い,本件発明の技術的範囲を[当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として]確定し,更に本件特許請求の範囲の記載が上記4(2)の事情が存在するものとして発明が明確であることという要件に適合し認められるものであるか否か等について審理を尽くさせるとしたのに対し、

      • 少数意見は、本件特許が無効でない限り,[被上告人製品は]本件特許発明の技術的範囲に属するものであると考えられるものであるが,果たしてそのとおりか,また,その出願の経緯等からしてこれを限定的に解釈する可能性はないか等について審理を尽くさせるとした点において、

      両意見は相違する。

そこで、念のため調査官解説を参照すると、以下のとおりである。

本件では、多数意見の部分が判例であり、・・・。

そうすると、民事訴訟法第三百二十五条第五項後段に規定する拘束力(8)民事訴訟法第三百二十五条第二項
上告裁判所である最高裁判所は、第三百十二条第一項又は第二項に規定する事由がない場合であっても、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるときは、原判決を破棄し、次条の場合を除き、事件を原裁判所に差し戻し、又はこれと同等の他の裁判所に移送することができる。
民事訴訟法第三百二十五条第五項
前二項の規定により差戻し又は移送を受けた裁判所は、新たな口頭弁論に基づき裁判をしなければならない。この場合において、上告裁判所が破棄の理由とした事実上及び法律上の判断は、差戻し又は移送を受けた裁判所を拘束する。
を有する判断は、以下のとおりと考えられる。

本件の差戻しを受けた知的財産高等裁判所は、

本件発明の技術的範囲を当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として認定し、

更に本件特許請求の範囲の記載が出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するものとして特許法第三十六条第六項第二号にいう「発明が明確であること」という要件に適合し認められるものであるか否かについて審理しなければならず、

当該事情が存在すると認められるときを除き、被上告人製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かについて審理してはならない。

したがって、本件の差戻しを受けた知的財産高等裁判所は、本件特許請求の範囲の記載が明確性要件に適合するものであるか否かについて審理することなく、被上告人製品が本件発明の技術的範囲に属するものであるか否かについて審理することはできない。

(4-2)明確性要件の審理は特許要件の審理に先行すること

PBPクレームの審理の順序の在り方に関し、特許要件を満たすか否かについての審理又は明確性要件に適合するか否かについての審理のうち、そのいずれを先行しなければならないかの点について、最高裁判決2を通じて検討する。

多数意見による差戻理由は、以下のとおりであった。

・・・,本判決の示すところに従い,本件発明の要旨を認定し,更に本件特許請求の範囲の記載が上記4(2)の事情が存在するものとして「発明が明確であること」という要件に適合し認められるものであるか否か等について審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

最高裁平成27年6月5日第二小法廷判決・平成24年(受)第2658号

これに対し、少数意見による差戻理由は、以下のとおりであった。

裁判官山本庸幸の意見は,次のとおりである。

私は,本件を原審に差し戻すことに賛成するが,その理由は多数意見とは異なるものである。以下,その理由を述べる。

・・・

上告人の本件特許に係る本件発明は,PBPクレームで表現された物(プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム)についてのものである。また,本件特許に係る訂正後の本件特許請求の範囲に係る発明は,PBPクレームで表現された物(プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウム)についてのものである。したがって,本件発明及び本件訂正発明の各要旨は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として認定されるものと解することを前提として,本件特許が無効であるのか否か検討する必要があると考えられるものであるが,この点について審理を尽くさせるという意味で,本件を原審に差し戻すことに賛成するものである。

最高裁平成27年6月5日第二小法廷判決・平成24年(受)第2658号

なお、少数意見にいう本件特許が無効であるのか否かとは、本件特許が特許法第二十九条第二項の規定に違反してされたものとして特許無効審判により無効にされるべきものであるか否かをいうことは明らかであろう(9)最高裁平成27年6月5日第二小法廷判決・平成24年(受)第1204号・民集69巻4号700頁[プラバスタチンラクトン及びエピプラバスタチンを実質的に含まないプラバスタチンナトリウム,並びにそれを含む組成物]
原審は,次のとおり判断して,上告人の請求を棄却すべきものとした。
(1)物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法の記載がある場合における特許法104条の3第1項に係る抗弁の判断の前提となる当該発明の要旨は,当該物をその構造又は特性により直接特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときでない限り,特許請求の範囲に記載された製造方法により製造される物に限定して認定されるべきである。
(2)本件発明には上記(1)の事情が存在するとはいえないから,本件発明の要旨は,当該製造方法により製造された物に限定して認定されるべきである。そして,本件発明は,当業者が容易に想到し得たものであるから,本件発明に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものであり,上記訂正の請求がされているとしても,本件訂正発明に係る特許も同様に特許無効審判により無効にされるべきものである。

多数意見と少数意見とを対比すると、

  • [一致点]
    • PBPクレームにおける発明の要旨の認定の在り方に関し、

      当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として認定されるとした点において、

      両意見は一致し、

  • [相違点]
    • 本件の差戻しを受けた知的財産高等裁判所におけるPBPクレームの審理の在り方に関し、

      • 多数意見は、本判決の示すところに従い,本件発明の要旨を[当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として]認定し,更に本件特許請求の範囲の記載が上記4(2)の事情が存在するものとして発明が明確であることという要件に適合し認められるものであるか否か等について審理を尽くさせるとしたのに対し、

      • 少数意見は、本件発明及び本件訂正発明の各要旨は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として認定されるものと解することを前提として,本件特許が無効であるのか否か検討する必要があると考えられるものであるが,この点について審理を尽くさせるとした点において、

      両意見は相違する。

ここで、念のため調査官解説を参照すると、以下のとおりである。

本件では、多数意見の部分が判例であり、・・・。

そうすると、民事訴訟法第三百二十五条第五項後段に規定する拘束力(10)民事訴訟法第三百二十五条第二項
上告裁判所である最高裁判所は、第三百十二条第一項又は第二項に規定する事由がない場合であっても、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるときは、原判決を破棄し、次条の場合を除き、事件を原裁判所に差し戻し、又はこれと同等の他の裁判所に移送することができる。
民事訴訟法第三百二十五条第五項
前二項の規定により差戻し又は移送を受けた裁判所は、新たな口頭弁論に基づき裁判をしなければならない。この場合において、上告裁判所が破棄の理由とした事実上及び法律上の判断は、差戻し又は移送を受けた裁判所を拘束する。
を有する判断は、以下のとおりと考えられる。

本件の差戻しを受けた知的財産高等裁判所は、

本件発明の要旨を当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として認定し、

更に本件特許請求の範囲の記載が出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するものとして特許法第三十六条第六項第二号にいう「発明が明確であること」という要件に適合し認められるものであるか否かについて審理しなければならず、

当該事情が存在すると認められるときを除き、本件特許が同法第二十九条第二項の規定に違反してされたものとして特許無効審判により無効にされるべきものであるか否かについて審理してはならない。

したがって、本件の差戻しを受けた知的財産高等裁判所は、本件特許請求の範囲の記載が明確性要件に適合するものであるか否かについて審理することなく、本件特許が特許法第二十九条第二項の規定に違反してされたものとして特許無効審判により無効にされるべきものであるか否かについて審理することはできない。

(5)小括

以上を一般化すると、最高裁判決によって生じる事実上の拘束力は、少なくとも以下のとおりのものと考えられる。

物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合にあっては,

その発明の要旨を当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として認定し、

更に当該特許請求の範囲の記載が出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するものとして特許法第三十六条第六項第二号にいう「発明が明確であること」という要件に適合し認められるものであるか否かについて審理しなければならない。

この場合において、当該事情が存在すると認められるときを除き、対象製品が当該発明の技術的範囲に属するか否かについて審理してはならない。

物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合にあっては,

その発明の技術的範囲を当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として確定し、

更に当該特許請求の範囲の記載が出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するものとして特許法第三十六条第六項第二号にいう「発明が明確であること」という要件に適合し認められるものであるか否かについて審理しなければならない。

この場合において、当該事情が存在すると認められるときを除き、その特許が同法第二十九条の規定に違反してされたものとして特許無効審判により無効にされるべきものであるか否かについて審理してはならない。

3 最高裁判決により解決されなかった論点(準備中)

(1)PBPクレーム該当性(準備中)

準備中

(2)不可能・非実際的事情の具体的類型(準備中)

準備中

(3)小括(準備中)

準備中

4 最高裁判決後の裁判例(準備中)

5 おわりに(準備中)

準備中

脚注   [ + ]

1. 菊池絵理最高裁重要判例解説(プラバスタチンナトリウム(プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)事件)
Low and Technology No.69(2015)
2. 最高裁平成三年三月八日第二小法廷判決・昭和六十二年(行ツ)第三号・民集45巻3号123頁 [トリグリセリドの測定法]
特許法二九条一項及び二項所定の特許要件、すなわち、特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するに当たっては、この発明を同条一項各号所定の発明と対比する前提として、特許出願に係る発明の要旨が認定されなければならない・・・。
3. 特許法第七十条第一項
特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。
4. 菊池絵理最高裁重要判例解説(プラバスタチンナトリウム(プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)事件)Low and Technology No.69(2015)によれば、特許請求の範囲に記載された製造方法にかかわらず、当該製造方法により製造された物と同一の物として解釈すべきであるとする見解のこと。
5. 菊池絵理最高裁重要判例解説(プラバスタチンナトリウム(プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)事件)Low and Technology No.69(2015)によれば、特許請求の範囲に記載された製造方法により製造された物に限定して解釈すべきであるとする見解のこと。
6. 菊池絵理最高裁重要判例解説(プラバスタチンナトリウム(プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)事件)Low and Technology No.69(2015)は、「8 本判決の意義」の項において、本判決は、・・・PBPクレームについての判断の枠組み(解釈基準および明確性要件との関係)を最高裁判所として初めて判断したものである。とする。
7. 例えば、一般財団法人 知的財産研究所特許権等の紛争解決の実態に関する調査研究報告書』は、第15頁「④ 地裁判決の分類(全体)」の項において、権利の侵害が認定されず請求が全部棄却された判決のうち、権利無効のみにより非侵害と認定されたものは、136件(30%)であった。構成要件を充足しないことのみにより非侵害と認定されたものは、188件(41%)であった。とし、第28-29頁「④ 高裁判決の分類(全体)」の項において、[2-1]権利無効のみにより非侵害と認定されたものは、46件(23%)であった。[2-2]構成要件を充足しないことのみにより非侵害と認定されたものは、97件(49%)であった。とする。
8, 10. 民事訴訟法第三百二十五条第二項
上告裁判所である最高裁判所は、第三百十二条第一項又は第二項に規定する事由がない場合であっても、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるときは、原判決を破棄し、次条の場合を除き、事件を原裁判所に差し戻し、又はこれと同等の他の裁判所に移送することができる。
民事訴訟法第三百二十五条第五項
前二項の規定により差戻し又は移送を受けた裁判所は、新たな口頭弁論に基づき裁判をしなければならない。この場合において、上告裁判所が破棄の理由とした事実上及び法律上の判断は、差戻し又は移送を受けた裁判所を拘束する。
9. 最高裁平成27年6月5日第二小法廷判決・平成24年(受)第1204号・民集69巻4号700頁[プラバスタチンラクトン及びエピプラバスタチンを実質的に含まないプラバスタチンナトリウム,並びにそれを含む組成物]
原審は,次のとおり判断して,上告人の請求を棄却すべきものとした。
(1)物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法の記載がある場合における特許法104条の3第1項に係る抗弁の判断の前提となる当該発明の要旨は,当該物をその構造又は特性により直接特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときでない限り,特許請求の範囲に記載された製造方法により製造される物に限定して認定されるべきである。
(2)本件発明には上記(1)の事情が存在するとはいえないから,本件発明の要旨は,当該製造方法により製造された物に限定して認定されるべきである。そして,本件発明は,当業者が容易に想到し得たものであるから,本件発明に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものであり,上記訂正の請求がされているとしても,本件訂正発明に係る特許も同様に特許無効審判により無効にされるべきものである。