拒絶理由通知書の読み方

ここでは、拒絶理由通知に対応するために、拒絶理由通知書から「拒絶の理由」を読み取る方法を説明します。

結論からいえば、拒絶理由通知書から、まず、主たる三要素を読み取った上で、次に、従たる要素を読み取っていくことが重要です。

1 はじめに‐拒絶理由を知るために‐

拒絶理由通知に対応するためには、通知された「拒絶の理由」がどのようなものであるかを知ることが欠かせません。

しかしながら、実際の拒絶理由通知書において「拒絶の理由」を読み取るために必要となる情報の全部が記載されるとは限りません。

このため、拒絶理由通知書から「拒絶の理由」を正確に読み取ることにしばしば困難を伴います。

そこで、本稿は、拒絶理由通知書に「書かれていること」に基づいて、これに「書かれていないこと」を補うことにより、拒絶理由通知書から「拒絶の理由」を正確に読み取るための方法を提供することを目的とします。

なお、本稿における用語の意義については、以下をご参照ください。

2 仮想事例について

本稿では仮想事例に基づいてご説明いたします。その前提となる仮想の事実は、以下のとおりです。

(1)本願

まず、特許請求の範囲を二つの請求項に区分して以下のとおり記載した特許出願(以下「本願」といいます。)をしたとします。

  • 【特許請求の範囲】
    • 【請求項1】 AとBとを備える鉛筆。
    • 【請求項2】 AとBとCとを備える鉛筆。

(2)本件拒絶理由通知書

次に、本願について以下のような拒絶理由通知書(以下「本件拒絶理由通知書」といいます。)を受けたとします(1)なお、実際の拒絶理由通知書においては、特許出願の番号、起案日、特許庁審査官、特許出願人代理人その他の拒絶理由通知に関する事項が記載されており、これらもいうまでもなく重要なものではありますが、本稿では割愛いたします。

拒絶理由通知書

・・・

この出願は、次の理由によって拒絶をすべきものです。これについて意見がありましたら、この通知書の発送の日から60日以内に意見書を提出してください。

  • 理 由

    1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

  • 記(引用文献等については引用文献等一覧参照)

    ● 理由1について

    • 請求項1
    • 引用文献1、2
    • 備考

      刊行物1には、AとDとを備える鉛筆が記載されている。刊行物2には、鉛筆にBを設けることが記載されている。

      刊行物1に記載の鉛筆において、当業者がDに代えて刊行物2に記載のBを適用することに格別の困難性はない。

  • 引 用 文 献 等 一 覧

    1. 特開20XX-XXXXXXX号公報
    2. 特開20XX-XXXXXXX号公報

また、本件拒絶理由通知に引用された刊行物には、それぞれ以下のようなものが記載されているとします。

  • 刊行物1 : AとDとEとを備える鉛筆。
  • 刊行物2 : BとFとを備える鉛筆。

3 主たる三要素を読む

(1)一般論

拒絶理由通知書から読み取るべき情報のうち最も重要なものは、次の三点です。

本稿では、下記1~3の要素を併せて「主たる三要素」ということにします。

特許出願に係る発明のうち、

  1. どの請求項に係る発明が、
  2. どの公知事実との関係において、
  3. どの規定により、

特許をすることができないとされたのか。

拒絶理由通知書には、自己のした特許出願について、どのような理由により拒絶をすべき旨の査定がされようとしているのかが記載されております。

それでは、特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない理由、すなわち、「拒絶の理由」はどのようにして特定されるのでしょうか。

主たる三要素は、いずれか一つでも異なれば直ちに「異なる拒絶の理由」をなすものである点において、「拒絶の理由」を特定するための要素のうち、主たるものといえます。

これに対し、「拒絶の理由」を特定するための要素のうち、主たる三要素以外のものは、その変更にかかわらず、なお「同一の拒絶の理由」となることがある点において、従たるものといえるでしょう。

なお、その詳細については、「パテント第69巻第7号通巻第805号パテント第69巻第7号通巻第805号をご覧下さい。

(2)具体論

それでは、主たる三要素を本件拒絶理由通知書についてみていくことにします。

本件拒絶理由通知書に記載された事項のうち、主たる三要素に関する部分を強調すると、以下のとおりです。

拒絶理由通知書

・・・

この出願は、次の理由によって拒絶をすべきものです。これについて意見がありましたら、この通知書の発送の日から60日以内に意見書を提出してください。

  • 理 由

    1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

  • 記(引用文献等については引用文献等一覧参照)

    ●理由1について

    • 請求項1
    • 引用文献1、2
    • 備考

      刊行物1には、AとDとを備える鉛筆が記載されている。刊行物2には、鉛筆にBを設けることが記載されている。

      刊行物1に記載の鉛筆において、当業者がDに代えて刊行物2に記載のBを適用することに格別の困難性はない。

  • 引 用 文 献 等 一 覧

    1. 特開20XX-XXXXXXX号公報
    2. 特開20XX-XXXXXXX号公報

まず、「書かれていること」からは以下のことがわかります。

審査官は、本願に関し、

  1. 請求項1に係る発明が、
  2. 刊行物1、2との関係において、
  3. 特許法29条2項の規定により、

特許をすることができないとの考えを示していること。

このように主たる三要素をもって特定された「拒絶の理由」は、現に通知された限りにおいて、「考えなければならないこと」となります。

次に、「書かれていないこと」からは以下のことがわかります。

審査官は、本願に関して、

  1. 請求項1以外の請求項に係る発明や、
  2. 刊行物1、2以外の公知事実や、
  3. 特許法29条2項の規定以外の規定について、

考えを示していないこと。

拒絶理由通知書に記載されていない「拒絶の理由」であっても、そのことだけをもってして、そもそも存在しないとしたり、解消したとすることはできません(2)拒絶をすべき旨の査定をしようとする審査官は、特許出願について拒絶の理由を一つ発見すれば足り、必ずしも全部の拒絶の理由を発見しなければならないとはされていないことによります。

しかしながら、「拒絶の理由」は予め通知されなければならないものであることから(3)特許法第五十条本文
審査官は、拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。
、現に通知されない限り(4)ただし、周知技術や技術常識を除きます。、「考えなくてよいこと」になります。

以上のように拒絶理由通知書の記載から主たる三要素を読み取ることにより、「考えなければならないこと考えなくてよいこと」を区別することができます。

4 従たる要素を読む

(1)省略部分を補う

主たる三要素を読み取ったら、次は従たる要素を読み取ります。

従たる要素には様々なものがありますが、特に容易想到性を根拠付ける公知事実が二以上ある場合において、特に重要なものは次の点です。

二以上の公知事実のうち、

  1. どれが主たる公知事実として、
  2. どれが従たる公知事実として、

用いられ、又は用いられていないか。

公知事実が二以上ある場合には、それぞれの公知事実ごとに、それが主たるものとして用いられているのか、あるいは、従たるものとして用いられているのか、を区別することも、実務上、極めて重要です。

なぜなら、主たる公知事実と従たる公知事実とでは、いずれも公知事実である点に変わりはないものの、時にその取り扱いを異にすることがあるためです。こちらも詳細については、前掲「パテント第69巻第7号通巻第805号」をご覧下さい。

しかしながら、公知事実における「主/従」の区別は、主たる三要素と異なり、必ずしもそれとわかる態様で拒絶理由通知書に明記されるとは限りません(5)例えば、特許庁ウェブサイト拒絶理由通知書等の記載様式に関する取組について」は、「最初/最後の拒絶理由通知の記載様式の要点」の項において、(1) 文献等を引用して新規性、進歩性等の拒絶理由を通知する場合は、拒絶理由と対象となる請求項及び引用文献等との組合せを明確に記載します。(2) 文献等を引用して、新規性、進歩性等の拒絶理由を通知する場合は、引用文献等で特に参照すべき箇所を明確に記載します。とするところ、明確に記載する事項には「引用文献等の組合わせ」が含まれるにとどまり、「引用文献等における主従の区別」は含まれておりません。

したがって、公知事実における「主/従」の別を読み取るためには備考の記載をみていくことが必要になります。

それでは、再び本件拒絶理由通知書の備考についてみてみましょう。

    • 備考

      刊行物1には、AとDとを備える鉛筆が記載されている。刊行物2には、鉛筆にBを設けることが記載されている。

      刊行物1に記載の鉛筆において、当業者がDに代えて刊行物2に記載のBを適用することに格別の困難性はない。

この備考には、少なくとも以下のような記載が省略されていると考えられます。補った部分を赤字により示します。

    • 備考

      本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、その記載のとおり、AとBとを備える鉛筆である。

      刊行物1には、AとDとを備える鉛筆が記載されている。

      本願発明と刊行物1に記載の鉛筆とを対比すると、いずれもAを備える点において一致し、本願発明はBを備えるのに対して刊行物1に記載の鉛筆はDを備える点において相違する。

      相違点について検討すると、刊行物2には、鉛筆にBを設けることが記載されている。

      刊行物1に記載の鉛筆において、当業者がDに代えて刊行物2に記載のBを適用して本願発明の如くすることに格別の困難性はない。

このように、省略されている部分がけして少なくないことがわかります。これを更にわかり易くするために項目を付してみます。

    • 備考
      1. 本願発明の認定

        本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、その記載のとおり、AとBとを備える鉛筆である。

      2. 主たる引用発明の認定

        刊行物1には、AとDとを備える鉛筆が記載されている。

      3. 一致点及び相違点の認定

        本願発明と刊行物1に記載の鉛筆とを対比すると、いずれもAを備える点において一致し、本願発明はBを備えるのに対して刊行物1に記載の鉛筆はDを備える点において相違する。

      4. 相違点についての判断(従たる引用発明の認定を含む。)

        相違点について検討すると、刊行物2には、鉛筆にBを設けることが記載されている。

        刊行物1に記載の鉛筆において、当業者がDに代えて刊行物2に記載のBを適用して本願発明の如くすることに格別の困難性はない。

容易想到性の判断手法が以上のように行われるものである限り、その認定判断の各過程について省略された部分も含めて補うことができなければ、「拒絶の理由」を根拠付ける論理付けがどのようなものかを知ることができないため、その対応もままならないことになります。

もっとも、このような負担を特許出願人が常に負うべきか否かの点については、また別の問題として検討されるべきでしょう。

いずれにせよ、どうしてこのように補うことができるのかの詳細については、「拒絶理由通知書の備考の補い方」をご覧ください。

(2)公知事実の主従を読む

備考の記載を補ったところによると、以下のことがわかります。

引用された二以上の証拠のうち、

  1. 刊行物1は、主たる公知事実を立証するものとして、
  2. 刊行物2は、従たる公知事実を立証するものとして、

それぞれ引用されていること。

一方、以下のこともわかります。

引用された二以上の証拠のうち、

  1. 刊行物1は、従たる公知事実を立証するものとして、
  2. 刊行物2は、主たる公知事実を立証するものとして、

いずれも引用されていないこと。

以上のことから、刊行物1に記載されたものについては、主たる公知事実として検討すれば足り、従たる公知事実として検討する必要はないことがわかります。

また、刊行物2に記載されたものについても、従たる公知事実として検討すれば足り、主たる公知事実として検討する必要はないこともわかります。

このように拒絶理由通知書が引用する証拠が二以上ある場合であっても、これらの組み合わせの全部を検討する必要はなく、備考の記載から引用された証拠ごとにその立証しようとする公知事実の主従の別を読み取ることにより、「考えなければならないこと考えなくてよいこと」を区別することができます。

例えば、本願発明と刊行物2に記載のものとを対比するに当たっては、本願発明と刊行物1に記載のものとの相違点に関する限りにおいて行えば足ります。

仮に、その範囲を超えて本願発明と刊行物2に記載のものとを対比してしまった場合には、あたかも特許出願人が刊行物2について主たる公知事実を立証するものとして引用されていると認識していたとして、公知事実の主従を変更してなる他の論理付けがされたときであっても、そのことをもって直ちに「異なる拒絶の理由」をなすとまではいえないとされるおそれがあります。

もっとも、以上を踏まえた上で、あえて公知事実の主従を変更してなる他の論理付けについて検討することは、早期に特許を受けることができるか否の結論を得るためには有益でしょう。

(3)その他の要素を読む

最後に、その他の要素、例えば、「本願発明の認定」、「主たる引用発明の認定」、「本願発明と主たる引用発明との一致点及び相違点の認定」、「相違点についての判断(従たる引用発明の認定を含む。)」を読み取ります。

ここで、各要素を読み取るに当たっては、備考の記載を手がかりにしながらも、それにとらわれることなく、本願明細書と引用された証拠との関係の中で読み取ることが重要です。

たとえ拒絶理由通知書中の備考に認定の誤りがある場合であっても、これが軽微なものであるときは、当該認定の誤りが結論に影響するとは限らないためです。

5 おわりに‐拒絶理由対応は拒絶理由を知ることから始まる‐

拒絶理由通知書から「拒絶の理由」を読み取り、その読み取った「拒絶の理由」について検討し、補正や意見により対応する。

しかしながら、「言うは易く行うは難し。」と申します。

どのように優れた技術論や法律論も、現に通知された「拒絶の理由」についての反論である限りにおいて有効であるに過ぎません。

すなわち、有効な反論を組み立てることができるか否かは「拒絶の理由」の読み取りにかかっており、その基礎を欠く反論は砂上の楼閣たらざるを得ないのです。

以 上

脚注   [ + ]

1. なお、実際の拒絶理由通知書においては、特許出願の番号、起案日、特許庁審査官、特許出願人代理人その他の拒絶理由通知に関する事項が記載されており、これらもいうまでもなく重要なものではありますが、本稿では割愛いたします。
2. 拒絶をすべき旨の査定をしようとする審査官は、特許出願について拒絶の理由を一つ発見すれば足り、必ずしも全部の拒絶の理由を発見しなければならないとはされていないことによります。
3. 特許法第五十条本文
審査官は、拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。
4. ただし、周知技術や技術常識を除きます。
5. 例えば、特許庁ウェブサイト拒絶理由通知書等の記載様式に関する取組について」は、「最初/最後の拒絶理由通知の記載様式の要点」の項において、(1) 文献等を引用して新規性、進歩性等の拒絶理由を通知する場合は、拒絶理由と対象となる請求項及び引用文献等との組合せを明確に記載します。(2) 文献等を引用して、新規性、進歩性等の拒絶理由を通知する場合は、引用文献等で特に参照すべき箇所を明確に記載します。とするところ、明確に記載する事項には「引用文献等の組合わせ」が含まれるにとどまり、「引用文献等における主従の区別」は含まれておりません。