ここでは、特許法を例に、「法令用語の常識」を説明します。
目次
A(B。以下同じ。)
その字句の下にカッコ書をしてその字句の意味をはっきりさせたり、又は逆にその法令のあとの方にしきりに出てくる用語の意味を前もってはっきりさせるというようなやり方がとられる。
以下同じ。
とか、以下
という場合の〇〇
という。以下
は、・・・、その規定よりあとに出てくる条項全部を(本則のみならず附則をも)包括的に指していることばである。したがって、これらの条項において使われる用語は、すべて、カッコ書で以下同じ。
とされた意味で使われていることになる。
ある字句の意味を限定的に、又は略称的に用いた場合、もしそういう限定又は略称の及ぶ範囲を一定の条項だけに限ろうとするときは、・・・、そのカッコ書の入ったものの効果の及ぶ条項の範囲を明示する。
(4)林修三『法令用語の常識』日本評論社(1975)162~163頁
Aとの語の意義について、Bとして定義し、又はBにより拡張し、若しくは減縮した上で、他の条項の一部又は全部において、当該意義と同一の意義を有するものとしてAとの語を用いる際に用いる構文。
物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあつては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為
特許権者又は専用実施権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(物を生産する方法の特許発明にあつては、侵害の行為により生じた物を含む。第百二条第一項において同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。
特許法第二条第一項第一号括弧書の定義規定により、同号でいう物
は、民法第八十五条の規定(5)この法律において
にかかわらず、物
とは、有体物をいう。プログラム等を含む。
とされ、更に以下同じ。
とされていることから、特許法第百条第二項にいう「物」もプログラム等を含む。
ことになる。
したがって、プログラム等も廃棄除去請求の対象となり得る。
前項の規定により外国語書面及び外国語要約書面を願書に添付した特許出願(以下「外国語書面出願」という。)の出願人は、その 特許出願の日(第四十一条第一項の規定による優先権の主張を伴う特許出願にあつては、同項に規定する先の出願の日、第四十三条第一項、第四十三条の二第一項(第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)又は第四十三条の三第一項若しくは第二項の規定による優先権の主張を伴う特許出願にあつては、最初の出願若しくはパリ条約(千九百年十二月十四日にブラッセルで、千九百十一年六月二日にワシントンで、千九百二十五年十一月六日にヘーグで、千九百三十四年六月二日にロンドンで、千九百五十八年十月三十一日にリスボンで及び千九百六十七年七月十四日にストックホルムで改正された工業所有権の保護に関する千八百八十三年三月二十日のパリ条約をいう。以下同じ。)第四条C(4)の規定により最初の出願とみなされた出願又は同条A(2)の規定により最初の出願と認められた出願の日、第四十一条第一項、第四十三条第一項、第四十三条の二第一項(第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)又は第四十三条の三第一項若しくは第二項の規定による二以上の優先権の主張を伴う特許出願にあつては、当該優先権の主張の基礎とした出願の日のうち最先の日。第六十四条第一項において同じ。)から一年四月以内に外国語書面及び外国語要約書面の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならない。
特許庁長官は、特許出願の日から一年六月を経過したときは、特許掲載公報の発行をしたものを除き、その特許出願について出願公開をしなければならない。次条第一項に規定する出願公開の請求があつたときも、同様とする。
特許権の存続期間は、特許出願の日から二十年をもつて終了する。
特許法第第六十四条第一項にいう「特許出願の日」は、現に特許出願をした日ではなく、同法第三十六条の二第二項括弧書に規定する「特許出願の日」である。
これに対し、同法第六十七条第一項にいう「特許出願の日」は、現に特許出願をした日である。
AであるBであつて、Cのもの
係り受けの関係を明らかにするために用いる構文。
AであるBとの要件を受けて、これにCとの要件を更に加える際に用いる。
この法律でプログラム等とは、プログラム( 電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。以下この項において同じ。)その他電子計算機による処理の用に供する情報であつてプログラムに準ずるものをいう。
プログラム 電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものをいう。
「一の結果を得ることができるように組み合わされた電子計算機に対する指令」とした場合、「一の結果を得ることができるように組み合わされた」との部分が、「電子計算機」との部分に係るのか、又は「電子計算機に対する指令」との部分に係るのか、いずれの解釈もすることができる結果、その意義が不明となる。
そこで、「一の結果を得ることができるように組み合わされた」との部分が、「電子計算機に対する指令」との部分に係り、「電子計算機」との部分に係らないことを明らかにしている。
そして、これにより、「電子計算機に対する指令」との要件を受けて、これに「一の結果を得ることができるように組み合された」との要件を更に加えている。
すなわち、ここでいう「もの」とは、「電子計算機に対する指令」をいう(6)林修三『法令用語の常識』日本評論社(1975)21頁
。者
又は物
の語であらわされる法律上の人格者又は物件をさらに限定しようという場合、たとえば、・・・、次に掲げる者で第〇条の規定に該当しないもの
・・・などという場合の後のもの
は、説明のためのもの
で、外国語の関係代名詞に相当し、人格をあらわす者
又は物件をあらわす物
ではないから、もの
とかな書する。
特許庁長官は、 不適法な手続であつて、その補正をすることができないものについては、その手続を却下するものとする。ただし、第三十八条の二第一項各号に該当する場合は、この限りでない。
「不適法な手続」との要件を受けて、これに「その補正をすることができない」との要件を更に加えている。
A若しくはB又はC
選択的接続の段階が複雑で二段階になる場合、つまり、A又はBというグループがまずあって、これとCというものとを対比しなければならないような場合は、
(8)林修三『法令用語の常識』日本評論社(1975)8頁A若しくはB又はC
というように、小さい接続の方に若しくは
を使い、大きい接続の方に又は
を使う。
物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあつては、その物の 生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為
輸出又は輸入
というグループがまずあって、これと生産
使用
譲渡等
譲渡等の申出
というものとをそれぞれ対比するために、輸出又は輸入
とからなる小さい接続の方に若しくは
を使い、この輸出若しくは輸入
と、生産
使用
譲渡等
譲渡等の申出
とからなる大きい接続の方に又は
を使った結果、生産、使用、譲渡等・・・、輸出 若しくは輸入又は譲渡等の申出・・・
としている。
- [生産]、
- [使用]、
- [譲渡等]、
- [(輸出)若しくは(輸入)] 又は
- [譲渡等の申出]
ただし、・・・、この限りでない
あることがらについて、その前に出てくる規定(文章)の全部又は一部の適用を打ち消す意味に用いられるものであって、通例
(9)林修三『法令用語の常識』日本評論社(1975)12頁ただし、・・・の場合については、この限りでない。
というように、ただし書の語尾として使われる。
期間の初日は、算入しない。 ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。
その前に出てくる規定期間の初日は、算入しない。
との部分を打ち消して、「ただし、その期間が午前零時から始まるときは、期間の初日は参入 しない。」との規定をなす。
A及びB並びにC
併合的選択が二段階になる場合、つまり、まずAとBをつなぎ、それからこのA・BのグループとCとをつなぐというような場合には、(10)林修三『法令用語の常識』日本評論社(1975)10頁及びのほかに並びにを使うが、その使い方は、・・・又は、若しくはの場合とは反対で、小さい方の接続に及びを使い、大きい方の接続に並びにを使う。
二人以上が共同して手続をしたときは、 特許出願の変更、放棄及び取下げ、特許権の存続期間の延長登録の出願の取下げ、請求、申請又は申立ての取下げ、第四十一条第一項の優先権の主張及びその取下げ、出願公開の請求並びに拒絶査定不服審判の請求以外の手続については、各人が全員を代表するものとする。ただし、代表者を定めて特許庁に届け出たときは、この限りでない。
まず特許出願の変更
(特許出願の)放棄
と(特許出願の)取り下げを
をつなぎ、それからこの特許出願の変更、放棄及び取り下げ
のグループと特許権の存続期間の延長登録の出願の取下げ
請求、申請又は申立ての取下げ
第四十一条第一項の優先権の主張及びその取下げ
出願公開の請求
拒絶査定不服審判の請求
とをつなぐために、小さい方の接続に『及び』を使い、大きい方の接続に『並びに』を使った結果、特許出願の変更、放棄及び取下げ、特許権の存続期間の延長登録の出願の取下げ、請求、申請又は申立ての取下げ、第四十一条第一項の優先権の主張及びその取下げ、出願公開の請求 並びに拒絶査定不服審判の請求
としている。
- [特許出願の(変更)、(放棄)及び(取下げ)]、
- [特許権の存続期間の延長登録の出願の取下げ]、
- [(請求)、(申請)又は(申立て)の取下げ]、
- [第四十一条第一項の優先権の(主張)及びその(取下げ)]、
- [出願公開の請求]
- [拒絶査定不服審判の請求]
並びに
Aの場合において、Bのとき
仮定的条件が二つ重なる場合は、・・・、大きい方の条件には
(11)林修三『法令用語の常識』日本評論社(1975)7頁場合
を、小さい方の条件にはとき
を使うことになっている。
Aとの条件を受けて、これにBとの条件を更に加える際に用いる。
特許出願人は、特許をすべき旨の査定の謄本の送達前においては、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる。ただし、第五十条の規定による通知を受けた後は、次に掲げる場合に限り、補正をすることができる。 一 第五十条(第百五十九条第二項(第百七十四条第二項において準用する場合を含む。)及び第百六十三条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定による通知(以下この条において「拒絶理由通知」という。)を最初に受けた場合において、第五十条の規定により指定された期間内にするとき。 二 拒絶理由通知を受けた後第四十八条の七の規定による通知を受けた場合において、同条の規定により指定された期間内にするとき。 三 拒絶理由通知を受けた後更に拒絶理由通知を受けた場合において、最後に受けた拒絶理由通知に係る第五十条の規定により指定された期間内にするとき。 四 拒絶査定不服審判を請求する場合において、その審判の請求と同時にするとき。
特許法第十七条の二第一項第一号に掲げる場合に該当する補正というためには、第五十条・・・の規定による通知・・・を最初に受けた
ことのほか、第五十条の規定により指定された期間内にする
ことを要する。
各号列記の部分、各号列記以外の部分
一つの条、項の中に、第一号、第二号などというような
号
の列記がある場合に、その各号として列記されている部分以外の部分、つまり、柱書の部分については、法令用語の上でこれを引用する場合、柱書
あるいは本文
とはいわずに、各号列記以外の部分
という用語が多く使われている。
これに対し、一、二、三、と号に列記されている部分は、
(12)林修三『法令用語の常識』日本評論社(1975)23頁各号列記の部分
である。
産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。 一 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明 二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明 三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明
特許法第二十九条第一項のうち、産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
との部分を各号列記以外の部分
といい、一、二、三と号に列記されている部分を各号列記の部分
という。
A、Bその他のC
(13)林修三『法令用語の常識』日本評論社(1975)16~17頁その他の
が使われている場合は、その他の
の前にでてくることばは、後にでてくる一そう意味内容の広いことばの一部をなすものとして、その例示的な役割を果す趣旨で使われているのである。
Cについて、例えば、AやBが含まれるとともに、必ずしもこれらに限定されるものではないことを明らかにするために用いられる構文。このとき、AとBとは、いずれもCの一部をなす。
特許出願後における特許を受ける権利の承継は、 相続その他の一般承継の場合を除き、特許庁長官に届け出なければ、その効力を生じない。
「一般承継」について、例えば、「相続」が含まれるとともに、必ずしもこれらに限定されるものではないことを明らかにしている(14)特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説[第20版]』は、「相続その他の一般承継」との語句の解釈として、相続のほかには、会社合併、包括遺贈等が含まれる。
とする。。
従業者等がした発明については、その発明が職務発明である場合を除き、あらかじめ、使用者等に特許を受ける権利を取得させ、使用者等に特許権を承継させ、又は使用者等のため仮専用実施権若しくは専用実施権を設定することを定めた 契約、勤務規則その他の定めの条項は、無効とする。
特許法第三十五条第二項にいう「定めの条項」について、例えば、「契約」や「勤務規則」が含まれるとともに、必ずしもこれらに限定されるものではないことを明らかにしている(15)特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説[第20版]』は、「契約、勤務規則その他の定め」との語句の解釈として、契約、就業規則、労働協約などが代表的であるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
とする。。
A、Bその他C
(16)林修三『法令用語の常識』日本評論社(1975)17頁その他
ということばが使われている場合は、そのその他
の前にでてくることばと後にあることばとは、その他の
の場合とちがって、全部対一部例示の関係にあるのではなく、並列関係にあるのが原則である。
少なくともAとBのほか、更にCがあることを明らかにするために用いる構文。このとき、AとBとは、Cの一部をなさず、Cから独立している。
第二項の要約書には、 明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した発明の概要その他経済産業省令で定める事項を記載しなければならない。
特許法第三十六条第七項に規定する経済産業省令で定める事項は、出願公開又は同法第六十六条第三項に規定する特許公報への掲載の際に、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した発明の概要と共に特許公報に掲載することが最も適当な図に付されている番号とする。
要約書には、特許法第三十六条第七項に規定する明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した発明の概要
のほか、経済産業省令で定める事項
、すなわち、出願公開又は同法第六十六条第三項に規定する特許公報への掲載の際に、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した発明の概要と共に特許公報に掲載することが最も適当な図に付されている番号
を記載しなければならない。
前項の場合において、当該請求項の中に 一の請求項の記載を他の請求項が引用する関係その他経済産業省令で定める関係を有する一群の請求項(以下「一群の請求項」という。)があるときは、当該一群の請求項ごとに当該請求をしなければならない。
特許法第百二十条の五第四項の経済産業省令で定める関係は、一の請求項の記載を他の請求項が引用する関係が、当該関係に含まれる請求項を介して他の一の請求項の記載を他の請求項が引用する関係と一体として特許請求の範囲の全部又は一部を形成するように連関している関係をいう。
一群の請求項
が有する関係には、特許法第百二十条の五第四項に規定する当該請求項の中に一の請求項の記載を他の請求項が引用する関係
のほか、経済産業省令で定める関係
、すなわち、特許法施行規則第四十五条の四に規定する一の請求項の記載を他の請求項が引用する関係が、当該関係に含まれる請求項を介して他の一の請求項の記載を他の請求項が引用する関係と一体として特許請求の範囲の全部又は一部を形成するように連関している関係
がある。
脚注
↑1 | 特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説[第20版]』は、高度のものとの語句の解釈として、 このような語が用いられたのは主として実用新案法における考案との関係からである。とする。 |
---|---|
↑2, ↑6, ↑7 | 林修三『法令用語の常識』日本評論社(1975)21頁者又は物の語であらわされる法律上の人格者又は物件をさらに限定しようという場合、たとえば、・・・、次に掲げる者で第〇条の規定に該当しないもの・・・などという場合の後のものは、説明のためのもので、外国語の関係代名詞に相当し、人格をあらわす者又は物件をあらわす物ではないから、ものとかな書する。 |
↑3 | 林修三『法令用語の常識』日本評論社(1975)21頁者又は物の語であらわされる法律上の人格者又は物件をさらに限定しようという場合、たとえば、・・・、次に掲げる者で第〇条の規定に該当しないもの・・・などという場合の後のものは、説明のためのもので、外国語の関係代名詞に相当し、人格をあらわす者又は物件をあらわす物ではないから、ものとかな書する。 |
↑4 | 林修三『法令用語の常識』日本評論社(1975)162~163頁 |
↑5 | この法律において物とは、有体物をいう。 |
↑8 | 林修三『法令用語の常識』日本評論社(1975)8頁 |
↑9 | 林修三『法令用語の常識』日本評論社(1975)12頁 |
↑10 | 林修三『法令用語の常識』日本評論社(1975)10頁 |
↑11 | 林修三『法令用語の常識』日本評論社(1975)7頁 |
↑12 | 林修三『法令用語の常識』日本評論社(1975)23頁 |
↑13 | 林修三『法令用語の常識』日本評論社(1975)16~17頁 |
↑14 | 特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説[第20版]』は、「相続その他の一般承継」との語句の解釈として、相続のほかには、会社合併、包括遺贈等が含まれる。とする。 |
↑15 | 特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説[第20版]』は、「契約、勤務規則その他の定め」との語句の解釈として、契約、就業規則、労働協約などが代表的であるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。とする。 |
↑16 | 林修三『法令用語の常識』日本評論社(1975)17頁 |