ここでは、審査及び審判に関する用語のうち「拒絶の理由」について解説します。
第三章 「拒絶の理由」とは
第一節 「査定の理由」とは
「査定の理由」とは、査定書に結論とともに付される理由をいう(5)特許法第五十二条第一項
査定は、文書をもつて行い、かつ、理由を付さなければならない。
(6)特許法施行規則第三十五条第五号査定には、次に掲げる事項を記載し、査定をした審査官がこれに記名押印しなければならない。ただし、拒絶をすべき旨の査定をする場合は、第三号に掲げる事項を記載することを要しない。
。
一 ・・・
二 ・・・
三 ・・・
四 ・・・
五 査定の結論及び理由
六 ・・・特に拒絶をすべき旨の査定があった場合において、その査定書に付された特定の拒絶の理由ないし規定違反をいうことがある。
ここで、拒絶をすべき旨の査定の理由は、拒絶理由通知に係る拒絶の理由と同一のものすなわち、既に通知した拒絶の理由でなければならない(7)特許法第五十条本文
審査官は、拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。
。これを満たすために、拒絶をすべき旨の査定の理由は、拒絶査定書の本文において拒絶理由通知書に記載した理由を引用することを通じて、付されることになる。
第二節 「審決の理由」とは
「審決の理由」とは、審決書に結論とともに付される理由をいう(8)特許法第百五十七条第二項
審決は、次に掲げる事項を記載した文書をもつて行わなければならない。
。
一 ・・・
二 ・・・
三 ・・・
四 審決の結論及び理由
五 ・・・特に審判の請求は成り立たない旨の審決があった場合において、その審決書に付された特定の拒絶の理由ないし規定違反をいうことがある。
ここで、審判の請求は成り立たない旨の審決の理由は、査定の理由その他の既に通知した拒絶の理由によるものでなければならない(9)特許法百五十八条
審査においてした手続は、拒絶査定不服審判においても、その効力を有する。
特許法百五十九条第二項第五十条(拒絶理由の通知)及び第五十条の二(既に通知された拒絶理由と同一である旨の通知)の規定は、拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合に準用する。・・・。
。これを満たすために、審決書の理由において引用する証拠のうち、特定の公知事実を立証するためのものについては、証拠ごとに、拒絶理由通知書において引用したものである旨が付されることになる。
これに対し、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者の技術常識を認定するための証拠であって、拒絶理由通知書により既に通知した特定の公知事実の意義を明らかにするためのものについては、この限りでない(10)最高裁昭和55年1月24日第二小法廷判決・昭和54年(行ツ)第2号[食品包装容器]
審判の手続において審理判断されていた刊行物記載の考案との対比における無効原因の存否を認定して審決の適法,違法を判断するにあたり,審判の手続にはあらわれていなかつた資料に基づき右考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者(・・・)の実用新案登録出願当時における技術常識を認定し,これによつて同考案のもつ意義を明らかにしたうえ無効原因の存否を認定したとしても,このことから審判の手続において審理判断されていなかつた刊行物記載の考案との対比における無効原因の存否を認定して審決の適法,違法を判断したものということはできない。
本件についてこれをみるのに、原審は、所論の乙一号証の二により当業者の右実用新案登録出願当時における技術常識を認定し、これにより審判の手続において審理判断されていた第三引用例に本件考案における密封包装の技術が開示されていると認定して本件考案が第一ないし第三引用例からきわめて容易に考案することができたとした審決の判断を支持したものであることは、原判文に照らして明らかであるから、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
最高裁昭和59年3月13日第三小法廷判決・昭和54年(行ツ)第134号[非水溶性モノアゾ染料の製法]特許法一五七条二項四号が審決をする場合には審決書に理由を記載すべき旨定めている趣旨は、審判官の判断の慎重、合理性を担保しその恣意を抑制して審決の公正を保障すること、当事者が審決に対する取消訴訟を提起するかどうかを考慮するのに便宜を与えること及び審決の適否に関する裁判所の審査の対象を明確にすることにあるというべきであり、したがつて、審決書に記載すべき理由としては、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者の技術上の常識又は技術水準とされる事実などこれらの者にとつて顕著な事実について判断を示す場合であるなど特段の事由かない限り、前示のような審判における最終的な判断として、その判断の根拠を証拠による認定事実に基づき具体的に明示することを要するものと解するのが相当である。
。そして、審決の理由が査定の理由と異なるか否かの判断に当たっての査定の理由の範囲の確定は、通常、拒絶査定書の本文において引用する拒絶理由通知書に記載された理由に基づいて、拒絶査定書の備考の記載を考慮して、行われる。
「拒絶の理由」とは、特許出願が特許法第四十九条各号のいずれかに該当することをいう(1)特許法第四十九条審査官は、特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
(2)例えば、「この特許出願には『拒絶の理由』があるから、拒絶をすべき旨の査定をする。」との用法。。拒絶理由。
一 その特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面についてした補正が第十七条の二第三項又は第四項に規定する要件を満たしていないとき。
二 その特許出願に係る発明が第二十五条、第二十九条、第二十九条の二、第三十二条、第三十八条又は第三十九条第一項から第四項までの規定により特許をすることができないものであるとき。
三 その特許出願に係る発明が条約の規定により特許をすることができないものであるとき。
四 その特許出願が第三十六条第四項第一号若しくは第六項又は第三十七条に規定する要件を満たしていないとき。
五 前条の規定による通知をした場合であつて、その特許出願が明細書についての補正又は意見書の提出によつてもなお第三十六条第四項第二号に規定する要件を満たすこととならないとき。
六 その特許出願が外国語書面出願である場合において、当該特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内にないとき。
七 その特許出願人がその発明について特許を受ける権利を有していないとき。
更に進んで、その特許出願が同条各号のうち二以上の規定を引用するものに該当する場合において、当該二以上の規定のうち、当該特許出願に係る要素が違反することにより当該特許出願が同号に該当するに至ったもの、すなわち、「特定の規定違反(3)最高裁昭和53年3月10日大法廷判決・昭和42年(行ツ)第28号[メリヤス編機]そこで、進んで右にいう無効原因の特定について考えるのに、法五七条一項各号は、特許の無効原因を抽象的に列記しているが、そこに掲げられている各事由は、・・・、そのそれぞれが別個独立の無効原因となるべきものと解するのが相当であるし、更にまた、同条同項一号の場合についても、そこに掲げられている各規定違反は、・・・、これまた各規定違反ごとに無効原因が異なると解すべきである。
(なお、拒絶査定の理由の特定についても無効原因の特定と同様であ(る)・・・。それ故、上告人の引用する当裁判所昭和二六年(オ)第七四五号同二八年一〇月一六日第二小法廷判決・裁判集民事一〇号一八九頁もまた、これを変更すべきである。)
」をいうときがある(4)例えば、「この特許出願には、その請求項1に係る発明が公知事実Xを根拠として特許法第二十九条第一項の規定により特許をすることができないとの『拒絶の理由』がある。」との用法。拒絶理由通知書に付される「拒絶の理由」は、少なくともこの程度に具体的に特定されることが通常である。。
拒絶の理由のうち、「拒絶理由の通知」がされたものは、「査定の理由」をなし、又は「審決の理由」をなすことができる。
脚注
↑1 | 特許法第四十九条審査官は、特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。 |
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↑2 | 例えば、「この特許出願には『拒絶の理由』があるから、拒絶をすべき旨の査定をする。」との用法。 |
↑3 | 最高裁昭和53年3月10日大法廷判決・昭和42年(行ツ)第28号[メリヤス編機]そこで、進んで右にいう無効原因の特定について考えるのに、法五七条一項各号は、特許の無効原因を抽象的に列記しているが、そこに掲げられている各事由は、・・・、そのそれぞれが別個独立の無効原因となるべきものと解するのが相当であるし、更にまた、同条同項一号の場合についても、そこに掲げられている各規定違反は、・・・、これまた各規定違反ごとに無効原因が異なると解すべきである。 (なお、拒絶査定の理由の特定についても無効原因の特定と同様であ(る)・・・。それ故、上告人の引用する当裁判所昭和二六年(オ)第七四五号同二八年一〇月一六日第二小法廷判決・裁判集民事一〇号一八九頁もまた、これを変更すべきである。) |
↑4 | 例えば、「この特許出願には、その請求項1に係る発明が公知事実Xを根拠として特許法第二十九条第一項の規定により特許をすることができないとの『拒絶の理由』がある。」との用法。拒絶理由通知書に付される「拒絶の理由」は、少なくともこの程度に具体的に特定されることが通常である。 |
↑5 | 特許法第五十二条第一項査定は、文書をもつて行い、かつ、理由を付さなければならない。 |
↑6 | 特許法施行規則第三十五条第五号査定には、次に掲げる事項を記載し、査定をした審査官がこれに記名押印しなければならない。ただし、拒絶をすべき旨の査定をする場合は、第三号に掲げる事項を記載することを要しない。 |
↑7 | 特許法第五十条本文審査官は、拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。 |
↑8 | 特許法第百五十七条第二項審決は、次に掲げる事項を記載した文書をもつて行わなければならない。 |
↑9 | 特許法百五十八条審査においてした手続は、拒絶査定不服審判においても、その効力を有する。 特許法百五十九条第二項 第五十条(拒絶理由の通知)及び第五十条の二(既に通知された拒絶理由と同一である旨の通知)の規定は、拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合に準用する。・・・。 |
↑10 | 最高裁昭和55年1月24日第二小法廷判決・昭和54年(行ツ)第2号[食品包装容器]審判の手続において審理判断されていた刊行物記載の考案との対比における無効原因の存否を認定して審決の適法,違法を判断するにあたり,審判の手続にはあらわれていなかつた資料に基づき右考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者(・・・)の実用新案登録出願当時における技術常識を認定し,これによつて同考案のもつ意義を明らかにしたうえ無効原因の存否を認定したとしても,このことから審判の手続において審理判断されていなかつた刊行物記載の考案との対比における無効原因の存否を認定して審決の適法,違法を判断したものということはできない。 本件についてこれをみるのに、原審は、所論の乙一号証の二により当業者の右実用新案登録出願当時における技術常識を認定し、これにより審判の手続において審理判断されていた第三引用例に本件考案における密封包装の技術が開示されていると認定して本件考案が第一ないし第三引用例からきわめて容易に考案することができたとした審決の判断を支持したものであることは、原判文に照らして明らかであるから、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。 最高裁昭和59年3月13日第三小法廷判決・昭和54年(行ツ)第134号[非水溶性モノアゾ染料の製法] 特許法一五七条二項四号が審決をする場合には審決書に理由を記載すべき旨定めている趣旨は、審判官の判断の慎重、合理性を担保しその恣意を抑制して審決の公正を保障すること、当事者が審決に対する取消訴訟を提起するかどうかを考慮するのに便宜を与えること及び審決の適否に関する裁判所の審査の対象を明確にすることにあるというべきであり、したがつて、審決書に記載すべき理由としては、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者の技術上の常識又は技術水準とされる事実などこれらの者にとつて顕著な事実について判断を示す場合であるなど特段の事由かない限り、前示のような審判における最終的な判断として、その判断の根拠を証拠による認定事実に基づき具体的に明示することを要するものと解するのが相当である。 |